自家採種の方法、自家採種禁止の野菜の種類
自家採種
自分の花粉で受粉するものを自家受粉、他の個体の花粉で受粉するものを他家受粉という。自家受粉する野菜の場合は、種採り用に1本だけ残しておけばいいのに対し、他家受粉する野菜では多数の種採り用の株を用意する必要がある。他家受粉作物では、他品種との交雑にも注意する必要があり、種採りの株数が少ないと種ができにくくなる性質(近交弱勢という)もあるので、自家採種を続けて品種を維持することは大変である。 マメ類は、開花前に自動的に受粉が終わっているが、ソラマメだけはわずかに他家受粉することがある。また、トマト、レタスなどの自家受粉する野菜でも、虫などが花粉を運ぶことがあるため、100%の自家受粉とはならずに、わずかに交雑する。そのため、隔離して栽培したり、袋や網で覆って栽培するなどの対策を行う。自家受粉するもの |
マメ科 ナス科:トマト、ナス、ピーマン・トウガラシ キク科:レタス、ゴボウ アオイ科:オクラ アブラナ科:ノラボウナ | |
他家受粉するもの |
アブラナ科(ノラボウナを除く) イネ科:トウモロコシ | |
栄養繁殖するもの |
ナス科:ジャガイモ ヒルガオ科:サツマイモ サトイモ科:サトイモ ヤマノイモ科:ヤマノイモ ネギ科:ニンニク、ワケギ、ラッキョウ キク科:ショクヨウギク、スイゼンジナ バラ科:イチゴ ショウガ科:ショウガ、ミョウガ |
●アブラナ科の自家採種
アブラナ属植物は、ほとんどが他家受粉であり、染色体数が同じだと交雑しやすい。アブラナ属の花は黄色が多いが、カイランのように白花もある(黄花のカイランもある)。
n= 8:クロガラシ
n= 9:キャベツ類
n=10:カブ類
n=17:アビシニアガラシ
n=18:カラシナ類
n=19:セイヨウアブラナ、ノラボウ(自家受粉する)
キャベツ類(原種 Brassica oleracea)
メキャベツ、ケール・ハボタン、カリフラワー、ブロッコリー、カイラン、コールラビ
ロマネスコ(ブロッコリー×カリフラワー)、スティックセニョール(ブロッコリー×カイラン)
カブ類(原種 Brassica rapa)
アブラナ、ミズナ、ノザワナ、コマツナ、チンゲンサイ・パクチョイ、ハクサイ・サントウサイ、タアサイ、コウサイタイ、サイシン、オータムポエム(コウサイタイ×サイシン)
カラシナ類(原種 Brassica juncea、ナタネn=10とクロガラシn=8の交雑)
タカナ、ザーサイ
アブラナ属以外のアブラナ科野菜
ダイコン属 ダイコン(n=9)
キバナスズシロ属 キバナスズシロ(ルッコラ)
ワサビ属 ワサビ
注)ツケナ類とは、広義では漬物、お浸、煮物に用いるアブラナ科に属する結球しない葉菜類の総称、農学上ではアブラナ(染色体数10)のうち、結球ハクサイ、根を利用するカブ、種子を油料とする在来ナタネを除いた葉菜類の総称である。
●マメ科
マメ科の栽培種は、花が開く前に自動的に自家受粉してしまう特性があり、また種が採れる量が少ないので、商業的に交配種を販売している種苗会社はない。ソラマメだけは他家受粉もするので、他の品種との交雑に注意する。
●キク科
キク科でF1交配種が販売されているのは、シュンギクだけである。キク科は自家受粉する。
●自家採種の例
・在来カブ品種"王滝蕪"
長野県王滝村15集落の65軒で自家採種されている王滝蕪では、採種母本はおよそ10から50本で、30本前後の場合が最も多かったという(大井 美知男、アブラナ科野菜在来種の多様性の評価と保護)
・桜島ダイコン
雄ダイコン、雌ダイコン、中間型を放任受粉させ、自家採種していることが、巨大性を維持している要因であるという(衛藤 威臣、桜島ダイコンの巨大性維持に関する遺伝メカニズムの解明)
●風媒によって交雑する飛散距離
理論的には、花粉の寿命と風速による。生井兵治氏によれば、風速5メートルでトウモロコシでは最大864kmに達するという(トウモロコシ花粉の寿命を2〜3日とし、単純に風速を掛けて計算したもの)
花粉飛散防止用ネットを用いても完全には交雑を防止できず、トウモロコシでは風下280m距離で、交雑率0.0099%であり、1.5mの距離ではネット有りで交雑率約8.7%、ネット無しで7.2%であった(2008年北海道食の安全・安心委員会)。
トウモロコシのGM作物試験栽培での隔離距離は、農林水産省では600m、北海道条例では1200mとされている。
●自家採種の参考になる本
自家採種入門 - 生命力の強いタネを育てる 中川原 敏雄、石綿 薫 著、2009年 不耕起、少肥、無農薬に向いた種にする育種について。22種類の作物。自然農に向いた本。→私が読んだ感想 |
野菜の種はこうして採ろう 船越 建明 著、2008年 56種の野菜の畑づくりから、播種、育苗、栽培管理、交配、採種手順、種子保存など各工程について詳しく自家採種の方法を記載している。農薬や施肥の使用についても書かれているので、慣行栽培の人にも役立つ本。→本書で紹介されている作物 |
にっぽんたねとりハンドブック プロジェクト「たねとり物語」著、2006年 64種の作物の自家採種方法が紹介されており、写真はカラーなので見やすい。自家採種の方法ばかりでなく、各野菜を使った料理や料理のコツなども紹介されている。→私が読んだ感想 |
自家採種ハンドブック 「たねとりくらぶ」を始めよう ミシェル ファントン、ジュード ファントン 著、2002年 原著はオーストラリア版であり、日本向けには必ずしも適していないが、主要な野菜だけで62種、珍しい野菜やハーブについては付録として64種も記載されている。本書の出版に関わった人たちが、4年後に日本向けの「にっぽんたねとりハンドブック」を出版している。→私が読んだ感想 |
岩崎さんちの種子採り家庭菜園 岩崎 政利 著、2004年 自家採種の参考書というより、岩崎さんの野菜への愛情があふれたエッセイとして読むとおもしろい。→私が読んだ感想 |
捨てるな、うまいタネ 藤田 雅矢 著、2003年 料理や食事の際に捨てていたタネを育てようという本。エッセイがおもしろい。 |
いのちの種を未来に 野口 勲 著、2008年 固定種ばかりをネット通販している「野口種苗研究所」の野口氏が伝統野菜や固定種の現状を分かりやすく解説。 |
●農業者の自家増殖
品種登録された品種でも、省令で定める栄養繁殖性の植物でない品種なら、農業者の自家増殖(自家採種)をすることができる。省令で定める栄養繁殖性の植物は、81属種あり、バラ、カーネーション、ガーベラ、しいたけ等である。それ以外の植物では、果樹の挿し木やイチゴのランナーによる育苗であっても、現行法では「農業者の自家増殖」に含まれる。
●PVPマーク PVPマークは、種苗法の登録品種(登録出願中)を表示するマークである。ただし、種苗法により定められたマークではなく、業界による自主的な取組みである。PVPは、Plant Variety Protection(植物品種保護)の略である。
● 農業者の自家増殖にかかる育成者権の例外規定が適用されない省令で定める栄養繁殖をする植物(81属種の栄養繁殖をする植物)
野菜類4属、果樹3属(草花類52、観賞樹19、きのこ3種を除く)
属の名前 | 属する植物名の例 | 登録品種 |
おもだか属 | くわい | |
ししうど属(とうきを除く) | あしたば | 理恵 |
スマランサス属 | ヤーコン | サラダオトメ、アンデスの雪、サラダオカメ |
せいようわさび属 | せいようわさび | 貴宝 |
パパイヤ属 | パパイヤ | 石垣珊瑚 |
まつぶさ属 | まつぶさ | しなの豊俊 |
マルピーギア属 | アセロラ | ルージュ磐田、エヌアールエイ309、エヌアールエイ1712 |
登録品種は、農林水産省の品種登録ホームページで確認できる。
●在来種・伝統種の野菜品種の参考になる本
種と遊んで 山根成人 著、2007年 著者は、「ひょうごの在来種保存会」代表であり、家業のリフォーム店のかたわら、20年以上も自家採種を続けてきた。著者が美味しさに感動し20年以上も自家採種をしてきた"岩津ネギ"が近交弱勢や交雑により形質が変わってしまったことをきっかけに、岩津ネギの産地に行ったが、そこでも形質の変化に悩んでいた。素人百姓だった著者が熱意で地元の農家を動かし、ついに復活させるまでのドキュメントが臨場感たっぷりに書かれており、楽しめた。他にも、商品性がないので市場には出さないが、うまくて作るのをやめられない作物が次から次へと紹介されており、兵庫県内だけでも探せば地元の在来種には素晴らしいものがこんなにもあるものだと感心した。人と人との結びつき、各地の自家採種家たちとの交流も楽しそうだ。 |
47都道府県・地野菜/伝統野菜百科 成瀬 宇平, 堀 知佐子 著、2009年 47都道府県ごとに、野菜の歴史、特徴、栽培の現状を淡々とまとめてある。352ページもある。写真・イラストは47都道府県ごとに1枚だけなので、文章ばかりである。 |
ふるさと野菜礼賛 在来品種を守る さとうち 藍 著、2007年 全国的にはあまり知名度の高くない在来野菜を守っている人々に焦点をあてて、現地取材した本であり、二十数種の在来種などが紹介されている。→詳細 |
●群馬県内で在来種を扱っている種苗店
・カネコ種苗 群馬県前橋市古市町一丁目50-12
・山木屋種物店(休業中?) 群馬県富岡市富岡1187:在来インゲン
●群馬県内の伝統品種・地方品種
・下仁田ネギ:鍋に入れるととろける甘さで絶品。別名、殿様ネギ
・六合村地きゅうり:六合村。黒イボ
・大白(おおじろ)大豆:片品村
・下植木(しもうえき)ネギ:伊勢崎市下植木町で200年以上栽培されてきた。主に鍋物用
・沼須(ぬます)ネギ:沼田市沼須で昭和初期までに産地が形成されていた。下仁田ネギに近い系統。
・尾島(おしま)ネギ:新田郡尾島町で大正時代までには栽培されていた。
・田口菜:かき菜の一種。前橋市田口町。「アブラナに比べて全体的に淡い色合いが特色。傷みやすいので自家栽培が大半。最初に田口菜が作られたという芝田謙治氏宅に記念碑が建てられた(ぐんまの伝統食より)」
・宮崎菜:富岡市宮崎地区。からし菜の一種で主に漬物にされる。収獲2月中旬〜3月。宮崎地区以外で栽培するとアクが強くなりすぎ食べられないらしい。
・時沢大根:前橋市富士見町
群馬県内で育成された固定種
・宮内菜:宮内禎一氏が昭和30年から育成し昭和47年に登録。洋種ナタネ(かき菜)の一種。
・上泉理想大根:前橋市上泉町を中心に栽培されていた。たくあん漬け用。練馬大根を基に品種改良された。昭和36年に渡辺友作氏が全国農林産物品評会農林大臣賞を受賞した。
・石倉ネギ(石倉根深一本葱):昭和初期、前橋市石倉の沢野氏が、鈴木葱と砂村赤昇を交配して育成
・国府(分)ニンジン:高崎市国府地区。大正時代、西洋系の仏国大長ニンジンをもとに品種改良された。根長60〜80センチ
・CO菜(しーおーな):伊勢崎、太田周辺で栽培。なばなの一種。昭和30-40年に多く栽培された。
群馬県内の品種で通信販売で種を入手できるのは、下仁田ネギ、石倉ネギだけのようだ。
参考
・47都道府県・地野菜/伝統野菜百科
・ぐんまの伝統食:料理50種類や田口菜などの食材が紹介されている
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